口は全身の健康を映す精密装置〜歯科医院でできることはもっとある〜

「歯科医院がコンビニより多くてよかった」といわれる日は来るだろうか

 

口が持つ驚くべき機能

私たちの口は、単に食べたり話したりするだけの器官ではありません。実は、全身の健康状態を教えてくれる精密で感度の高い発信装置なのです。

口には主に次のような機能があります。

言葉で伝える機能
体調不良を言葉にして人に伝えることができます。これは当たり前のようで、実は非常に重要な機能です。

エネルギーを取り込む機能
食べ物を咀嚼し、栄養を体内に取り込む入口です。この機能が衰えると、全身の栄養状態に直結します。

全身情報を読み取る機能
唾液や歯肉からの微量な血液には、全身の情報が含まれています。最近では唾液検査で様々な疾患リスクを調べる研究も進んでいます。

異変をいち早く察知する機能
特に注目したいのが、歯が溶け始めたときのサインです。むし歯が頻繁にできる、歯の表面が溶けているといった症状は、実は胃酸の逆流を示している可能性があります。驚くべきことに、この歯の変化は逆流性食道炎の診断よりも感度が高いことがあるのです。

口の健康は全身の健康とつながっている

口腔内を最適な状態に保つことは、全身を最適な状態に保つことと深くリンクしています。

ここで、よくある医療現場のジレンマをお話しします。

体調が悪くて内科を受診しても、軽度な不調では明確な疾患名がつかず、「様子を見ましょう」と言われて終わってしまうことはありませんか?

例えば、むし歯が次々とできてしまう方、歯が溶けてしまう方がいらっしゃいます。これらの症状の背景には胃酸の逆流があることが多いのですが、内科を受診しても「逆流性食道炎」という診断がつかないケースがあります。診断基準を満たさない程度の症状だと、治療対象にならないのです。

しかし、歯科の視点で見ると、明らかに「酸蝕症」や「反復性う蝕」という病名がつく状態です。消化器内科では病名がつかなくても、歯科では病名がつくのです。

つまり、「歯を守ることに全力集中する」という医療モデルを採用すれば、結果的に全身の最適な健康状態を獲得できる確率が上がるということになります。

見過ごされがちな口と全身のつながり

整形外科に肩こりを相談しに行ったとき、歯並びについて診査されたことはあるでしょうか?

おそらく、ほとんどの方が経験していないと思います。

しかし歯科臨床の現場では、顎関節の位置のずれ、かみしめ癖、歯並びの乱れ、歯の欠損などが原因で片頭痛や肩こりを繰り返している方を頻繁に拝見します。

顎関節の使い方を体にとって負担の少ない方向へ改善することで、片頭痛や肩こりが劇的に改善するケースは決して珍しくありません。これは、口腔が全身の姿勢バランスや筋肉の緊張状態に影響を与えているからです。

口腔機能低下症という新しい概念

「口腔機能低下症」という病気をご存じでしょうか?

これは、舌や頬、噛むための筋肉などの衰え、唾液分泌量の低下、咀嚼機能の低下などを総合的に評価して診断される病気です。

口腔機能検査では、以下のようなことを調べます。

  • 舌や口の周りの筋力
  • 唾液の分泌量
  • 咀嚼能力(食べ物を噛み砕く力)
  • 嚥下機能(飲み込む力)
  • 発音の明瞭さ

重要なのは、口腔機能の衰えは全身機能の衰えよりも早く訪れるという事実です。

つまり、口腔機能低下症を早期に発見し対処することで、全身の衰えを予防し、将来の要介護状態を防ぐことができる可能性が高まるのです。口は、全身の老化を知らせてくれる「早期警報装置」とも言えます。

歯科医院で本当はできること

歯科医院と聞くと、むし歯や歯周病の治療をするところというイメージが強いかもしれません。

しかし実際には、もっと幅広い健康管理が可能です。

従来の歯科診療

  • むし歯のチェック
  • 歯ぐきの炎症チェック
  • 歯並びのチェック

これからの歯科診療

  • 唾液のpH測定(酸性度合いから食生活や逆流のリスクを評価)
  • 咀嚼機能検査(食べる力の客観的評価)
  • 発語機能検査(舌の動きや口腔周囲筋の状態を評価)
  • 口腔筋力測定(舌圧測定など)
  • 嚥下機能評価

これらの検査を通じて、全身の健康状態の兆候を早期に拾い上げたり、患者さんご自身の健康意識を高めていくことが可能になります。

「歯科医院はコンビニより多い」の本当の意味

「歯科医院はコンビニより多すぎる」という話を聞いたことがあるかもしれません。

しかし、実は医科の診療所(内科など)の方が歯科医院よりも多いのです。それでも「多すぎる」とは言われません。

なぜ歯科だけが「多すぎる」と言われるのでしょうか?

それは、歯科医院でできることが「むし歯と歯周病の治療」に限定されていると思われているからではないでしょうか。

しかし前述のとおり、歯科医院でできることはまだまだあります。

口腔を通じた全身の健康管理、予防医療、機能訓練、栄養指導など、地域の健康ステーションとしての役割を果たせる可能性は無限大です。

「コンビニより多くて良かった」と思われるくらい、歯科医院の価値を高めることができるはずです。

変化の時が来ている

歯科医療には今、変化の波が訪れています。

一般の方の意識を変えたい
「歯医者は痛くなってから行くところ」ではなく、「健康を守るために定期的に通うところ」という認識に変わってほしいと願っています。

歯科医院の機能も変化してほしい
治療だけでなく、検査・予防・機能訓練・健康教育を提供する場所へと進化する必要があります。

制度も後押ししている
2024年の保険診療改定では、50歳以降の方を対象とした口腔機能低下症の検査が充実しました。これは、国も歯科医院に機能検査を求めているという証です。方向性は正しいと思います。

これからの歯科医院の価値

今後、歯科医院の価値と生存を決めるのは、以下の点になるでしょう。

  1. どのような検査体制を整えるか
    先進的な機能検査を導入し、データに基づいた評価ができるか。
  2. どのような出口(ゴール)を設定するか
    単に「異常がある/ない」を伝えるだけでなく、患者さんが目指すべき具体的な健康状態を示せるか。
  3. どのような指導を展開できるか
    検査結果を踏まえて、食生活、口腔ケア、機能訓練など、実践可能な改善策を提案できるか。

口は、あなたの全身の健康を映す精密なセンサーです。

定期的な歯科受診は、むし歯や歯周病を防ぐためだけでなく、全身の健康を守るための大切な習慣なのです。


この記事が、歯科医院の新しい役割について考えるきっかけになれば幸いです。歯科医療従事者の皆さんにとっても、これからの診療の方向性を考える一助となることを願っています。

 

 

ちなみに

口腔機能の低下をしないように、お口の健康が世の中の方に「伝わる」状態になることを目指して、IP制作(音楽やアニメなど)を行っています。

もしよかったら、健康に関するメッセージを盛り込んで作っていますので聞いてみてください。

 

 

 

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著者 


手塚 充樹(てづか みつき)のプロフィール

趣味と人柄

趣味は運動と音楽です。
かつてはバスケットボールに熱中し、小学校から大学、そして社会人に至るまで、監督やプレイヤーとして活動していました。出身大学ではバスケットボール部の監督も務めていましたが、現在はボクシングを趣味として3年間ほど取り組んでいます。
また、音楽にも造詣が深く、歌やギターなどを趣味として楽しんでいます。

皆さまの歯科診療に携わることを楽しみにしておりますので、お口と体の健康について何かあればお気軽にご相談ください。患者さまに寄り添う姿勢を意識しております。


学歴・経歴

学歴

経歴

  • 青山学院高等部 卒業
  • 鶴見大学歯学部 歯学科 卒業
  • 鶴見大学歯学部附属病院にて臨床研修修了
  • 鶴見大学大学院 歯学研究科
    口腔外科学・口腔内科学専攻 修了
    博士(歯学)取得
  • 鶴見大学歯学部 口腔内科学講座(口腔科学第2)入局
  • 歯科医院勤務医・副院長として臨床経験を積み、口腔内科学の知見を基盤としながら、咬合理論、根管治療、ダイレクトボンディング、歯周治療、インプラント治療など、歯科臨床全般にわたり幅広く研鑽を重ねる。
  • ジンデンタルクリニック 院長を歴任
  • 2019年 ヘルシーライフデンタルクリニック 開院
  • 現在
    学校法人 大原学園
    東京立川歯科衛生学院専門学校 兼任教員

現職

  • 新橋ヘルシーライフデンタルクリニック 院長
  • 健康寿命延伸研究会 主催
  • 学校法人 大原学園 東京立川歯科衛生学院専門学校 兼任教員

 

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