唾液を学ぶ日──『唾液EXPO 2025 in 大阪』開催レポート

唾液を学ぶ日──『唾液EXPO 2025 in 大阪』開催レポート

唾液EXPO 2025 の集合写真

「健康状態を可視化できない?」

"唾液の重要性や歯科診療に対して新たな視点を提案したい"──

そのような想いを神奈川歯科大学 槻木 恵一 教授、歯科衛生士 土屋 和子 先生と私 手塚 充樹の間でお話をしたところからスタートしたのが《唾液EXPO》の出発点でした。第一回の開催を大阪にて行うこととなり、登壇者としても活躍してくださった歯科衛生士の吉垣 理恵 先生が会場の手配など主体となって講演活動を支えてくださりました。

 

唾液EXPOのロゴ

唾液EXPOのチラシ

唾液は口の中の血液であり、体を守る魔法のカクテル。体の状態を映す小さな鏡。 pH、免疫、虫歯菌の活性度、そしてストレスや生活リズムまでも、唾液は静かに語ってくれます。

 

今回のEXPOでは、そもそもの生物学的な唾液の存在意義や、現代において少なくないといわれている口腔乾燥症の傾向からの脱却方法、唾液検査の方法や臨床現場での検査のエラー対策など、基礎から実践までを網羅する形で展開することができました。

歯科と予防医療の専門家として、「口から全身の健康の可能性を高めること」について参加者と一緒に体験し、語り合う場となりました。

ここから見えてきたのは、治療の前に"気づく"ことの大切さ。そして、医療はもっと自由に、楽しく、深く伝えられるという希望でした。

 

むし歯があったらすぐ削って治療する時代が終焉を迎えた

むし歯の治療については、治療方針について大きな転換期を迎えており、「むし歯は活動性を評価して安易に削らない」といった感じになってきております。進行が止まっていれば無理に削って埋めなくてもいいわけですが、むし歯が進行しているのか停止しているのか、その速度を図る手法についてはまだ曖昧な部分があると言わざるを得ません。

 

過去にはちょっと黒かったり虫歯っぽかったら削って埋めるのが定石であり、成果報酬型の日本の医療保険においても経営的に整合性の取れる治療方針だったかと思います。

「これ、むし歯です。」と説明してどんどん詰め物をする処置をしていたわけですね。過去には歯科医療現場で「むし歯の活動性」という概念は日の目を浴びていなかったように感じています。

むし歯の活動性を評価するという概念があれば、むし歯を安易に切削しなくてもよくなります。ただ、この活動性を評価する方法については疑問を感じています。まだ客観的なデータとして解釈することが難しく「視診」がもっともすぐれた診査方法だといわれています。

そのため、むし歯をみる「目」が、マイクロスコープや拡大ルーペを使っているのかどうかや、診査する人間の経験値によっても左右される可能性があります。

そこで、唾液の質の評価などを用いることによってある程度はむし歯の活動性をコントロールしたり、活動性の評価をすることに寄与できるのではないかと考えています。

 

詰め物の治療といいましても、限界があります。天然の歯に勝る、もしくは同等の状態を獲得しようすれば、材質をセラミックやジルコニアにして接着剤を強力なものにするか、ダイレクトボンディングという手法を用いてコンポジットレジン(樹脂)を使い、天然の歯の状態を模倣して強固な接着力を発揮して修復するか、いずれにしろ保険診療の範囲でまかない切れないほどの精密さと技量が求められます。

保険診療か自費診療かの線引きについては先生によってもいろいろな考え方があるものの、保険診療を前提として考えすぎてしまうと、患者さんの多くの方は、治療の質の違いを理解する機会を失ってしまっているかもしれないですね。

 

優先順位は

1.むし歯ができないようにする or むし歯がこれ以上進行しないようにする

2.治療(介入)が必要なら全力で治療

 

むし歯は削って埋めても、実は再発防止効果、予防効果については限定的です。将来的にすぐそばからむし歯ができてしまったりすることもあります。

皆さんは歯科治療を受けたら、完治して今後むし歯にはならないとお考えな場合もあるかと思います。しかしながら、がんなどの病気と同様に、原因と向き合って再発防止に努めたり、今お口の中でできているむし歯が進行しないようにするアプローチというのが重要となってきます。

当日のプログラムハイライト

第1部:唾液の基礎知識から最新研究まで

槻木恵一先生の講演では唾液の基本や実践的で科学的なお話
「唾液って、ただの水分だと思っていた」。

第一部は神奈川歯科大学の教授であり、日本唾液ケア科学会の代表であられる槻木恵一先生からの発表でした。歯科医療従事者となれば唾液がただの水だと思っているとまでは言いませんが、唾液の役割については学生の時に勉強してそれっきりという歯科医療従事者も少なくありません。

実際には、唾液には複数の物質や機能があることが明らかになっているものの、研究においてはまだまだやるべきことや解明できることが残されているのが現状です。研究を実際に行う人員不足や歯科医療従事者の興味関心など様々な要因があって研究が進みづらいと考えられています。

 

唾液は、抗菌作用、pH調整、消化促進など多岐にわたる機能を持っています。人間の人体には大唾液腺と呼ばれる舌下腺、顎下腺、耳下腺という組織があります。それぞれの役割については大まかには理解が進んでいたもののさらに探求するとそれぞれの唾液腺には全く別の機能が備わっている可能性が明らかになってまいりました。噛むときには顔のえらの部分にある咬筋という筋肉が働いて、咬筋のすぐそばにある耳下腺という組織が主に働いてアミラーゼという酵素を出したり、食塊(しょっかい)という食材を飲み込みやすくまとめる作業を助けてくれます。ですので、舌下腺や顎下腺と違って、耳下腺は「消化吸収のための唾液腺」とも呼べるわけです。

 

特に印象的だったのは、そもそも唾液が生物に存在している意義についてのお話でした(槻木恵一先生談)。人間は皮膚の表面がぬるぬるに粘液でコーティングされているわけではなく、皮膚のバリアによって感染を防ぐことができています。その一方で、粘膜といわれる口腔内や消化管内の表面については必ず正常な粘膜には粘液が存在しています。粘膜から感染がおこらないように守る役割を持っているのが唾液の重要な役割です。発生学に立ち返って考えることで唾液本来の機能を見出し、研究対象としていく術としても有効ですし、「そもそもの発生の成り立ち」を考えるって大事だなと改めて感じました。

第2部:実践!口腔乾燥症の対策

土屋和子先生の講演では顔周りの運動などが多く紹介

参加者全員で実際に唾液の排出を促す舌運動などを行う、実践形式のセクションも開催されました(土屋和子先生談)

効果的なセルフケア方法

  • 唾液腺マッサージの実技指導
  • 適切な水分摂取のタイミング
  • 口呼吸から鼻呼吸への意識改革
  • ストレス管理と唾液分泌の関係性

第3部:実際の歯科医院での唾液検査の取り入れ方、説明の仕方、検査結果のエラー対策!

私、手塚充樹からは唾液検査シルハの活用法とエラー対策。唾液中総IgAの測定検査をどのように臨床に活かしているかどうかについてを発表

唾液検査の方法はさまざまありますが、その中でも、唾液検査機器Shillha(シルハ)、pH試験紙、唾液中の総IgA測定についてを紹介しました。

 

唾液検査機器のシルハは、唾液中のアンモニア、むし歯菌の活発度、酸性度、緩衝能(口腔内を中和する能力のこと)、白血球(炎症のサイン)、たんぱく質(炎症のサイン)などの項目を測定することが可能です。

 

有効に使えば患者さんにむし歯予防の気づきを得たいただくことが可能だし、使い勝手がよい検査機器です。

 

しかしながら、検査結果の読み方がよくわからない、検査結果にて極端な結果が出てしまう時があり測定エラーなのか本当の結果なのかわかりづらいときがある。などの理由から、結局歯科医院の中でホコリをかぶってしまい使えていないようなことも聞くことがあります。

 

参加者の声

参加者アンケートより(抜粋)
📊「数値観察を積極的に取り入れたいと思いました」
🔍「全身に重要って言うのは知っているが、まさしくもっと重要という事を再度確認させていただきました」
⚠️「医院で小児に対してシルハを行っているのですが、極端な結果が出る事が連続して多く、それがエラーとも分かっていませんでした。明日から唾液の採取方法を気をつけて行っていきます」

💧シルハ(唾液検査)の検査結果説明時に口腔内だけでなく、全身状態も関係してますとお話します。

👍シルハは埃をかぶっているので 少し臨床で活用していきたいと思いました。
🔴今までエラーが出てた原因の発見があったので検体を混ぜる均一にすることはすぐ取り入れる事が出来るので実践します

🥦栄養と歯科との絡みを改めて、臨床に繋げたいと感じた

 

上記のような参加者の方々からの声を頂戴することができました。

参加者の声から、伝えたいことは伝わったなという手ごたえを感じています!
 

第四部 唾液の質と分泌量を改善する栄養アプローチについて

吉垣理恵先生からは唾液の量や質と栄養に関するお話を中心に。

歯科衛生士の吉垣理恵先生からは、唾液の質と量を改善することを栄養の観点からアプローチする点についてお伝えいただきました。

ビタミンAが唾液の分泌量やIgAを増加させる点についても触れられていました。

脂溶性ビタミンについては、日ごろの臨床では不足している方が多いという感覚をもっています。中型魚(アジ、サンマ、イワシなど)を食べる機会が少なく炭水化物主体の生活を送っている方も少なくありません。

 

 

 

今後の展望:唾液から始まる予防医療革命

唾液EXPO 2025 in 大阪の講師の先生方

 

おわりに:小さな一滴から始まる大きな変化

唾液という小さな一滴に込められた情報の豊かさに、参加者の皆さんと共に驚き、学び、そして希望を感じた一日でした。

唾液は難しくない。怖くない。そして何より、楽しく学べるものだということを、今回のEXPOを通して改めて確信しました。

健康は「治す」ものから「育む」ものへ。その第一歩として、毎日何気なく飲み込んでいる唾液に、もう少し注意を向けてみませんか?

きっとあなたの体が、今まで気づかなかった大切なメッセージを伝えてくれるはずです。


次回予告 『唾液EXPO vol.2』は来年に鹿児島にて開催予定です。今回参加できなかった方、もっと深く学びたい方、ぜひお待ちしています。詳細は公式サイトにて近日発表予定です。

お問い合わせ JUJU&Bloom 唾液EXPO事務局 [連絡先情報]daeki.expo@gmail.com

 

非常識な口腔予防学: 歯科医だから言える! 口腔内が変える体の未来

 

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著者 


手塚 充樹(てづか みつき)のプロフィール

趣味と人柄

趣味は運動と音楽です。
かつてはバスケットボールに熱中し、小学校から大学、そして社会人に至るまで、監督やプレイヤーとして活動していました。出身大学ではバスケットボール部の監督も務めていましたが、現在はボクシングを趣味として3年間ほど取り組んでいます。
また、音楽にも造詣が深く、歌やギターなどを趣味として楽しんでいます。

皆さまの歯科診療に携わることを楽しみにしておりますので、お口と体の健康について何かあればお気軽にご相談ください。患者さまに寄り添う姿勢を意識しております。


学歴・経歴

学歴

経歴

  • 2009年鶴見大学歯学部口腔内科学(口腔外科学第2講座)講座入局
  • 2014年:新橋テヅカ歯科クリニック 副院長
  • 2014年:川崎ジンデンタルクリニック 院長
  • 2017年:鴨宮青山デンタルクリニック 非常勤
  • 2019年3月健康寿命延伸研究会 主催
  • 2019年9月:新橋ヘルシーライフデンタルクリニック 開設
  • 2023年4月:学校法人 大原学園 東京立川歯科衛生学院専門学校 兼任教員

現職

  • 新橋ヘルシーライフデンタルクリニック 院長
  • 健康寿命延伸研究会 主催
  • 学校法人 大原学園 東京立川歯科衛生学院専門学校 兼任教員

 

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